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Habitable Planet の形成と進化 (2):
短期的生存可能条件

阿部 豊(東大・理)
2006 年 7 月 26 日
2. 短期的生存可能条件:
ある一瞬に惑星上で生命が生きられる条件


液体の水が生存できる条件
  • 温度は 三重点と臨界点の間
    • 温度 0.01 ℃〜374.11 ℃の間
    • グラフと文章が違うが…
  • 圧力は飽和蒸気圧以上.
  • 臨界点にも生命は存在するのか?
    • 中央海嶺では臨界点に達しているが, 生命も存在している.


惑星表層環境
  • 0 次元モデルを用いて考察
  • 静水圧平衡の大気を置き, 惑星全体の熱収支を考える


以下, 0 次元モデルに関する講義録
2.1.1 静水圧平衡


2.1.2 熱収支


プランク関数
  • 黒体(理想的に放射を射出する物体)の輻射量を記述
  • 目的によって波長あたり, 波数あたり, 振動数あたりで表現.
  • 関数型の変換に注意
    • 積分型が等しいとして変換する必要がある.
    • 単に端数を振動数で置換するだけでは駄目.


ウィーンの遷移則
  • 温度とともに輻射のエネルギーピークが短波側にずれる
  • エネルギーの大きさもすべての波長領域で温度とともに増加する


ステファン・ボルツマンの法則
  • 波長積分した輻射量は温度の 4 乗に比例


太陽放射と地球放射
  • 太陽放射 = 短波放射
  • 地球放射 = 長波放射
    • 本来, 両者は重ならない(横軸に注意)
    • 横軸を ln λで書くと綺麗に(教科書的に)見える.


2.1.3 放射平衡と温室効果
  • 惑星が十分早く自転している場合に成り立つ
    • 何に対して十分早いかに注意
  • 大気を持つ惑星ではほぼ成り立つ(だろう)


放射平衡


ガラス板モデル
  • 太陽放射(可視光)に対して, 大気は透明
  • 惑星放射に対しては不透明


大気なしの場合


ガラス板 1 枚の場合


ガラス板 1 枚の場合 要約
  • 公比 0.5 の等比級数


ガラス板 2 枚の場合


ガラス板 n 枚の場合
  • Fs が (n+1) 倍
  • n→∞ のとき T→∞ となる


温室効果
  • 熱が大気にたまることではないことに注意


惑星放射の伝達
  • ガラス板モデルのガラス板の枚数は, 光学的厚さに対応


惑星放射
  • 右辺第 1 項: 大気の射出する放射
  • 第 2 項, 第 3 項: 地面の射出する放射
  • 光学的厚さ τ〜1 で温度が決まる.
    • 光学的に薄い(τ<<1): 大気からの寄与が無い
    • 光学的に厚い(τ>>1): 地面からの寄与が無い
  • 平行平面大気ではない場合式(eg, 球面)
    • 立式は可能だが積分が難しい.
    • 斜め入射の存在 -> 角度積分と鉛直積分を分離できない
    • 係数 3/2 を置き換えるだけではすまない


灰色大気の放射平衡(1)


灰色大気の放射平衡(2)
  • 境界条件


灰色大気の放射平衡(3)


灰色大気の放射平衡(4)


灰色大気の放射平衡(5)


1.2.5 放射対流平衡
  • 放射平衡では大気下端と地面の間に温度の飛びが生じる
  • 飛びは「対流」によって辻褄があう, と考える.


放射対流平衡構造
  • 対流が起こったことによって大気の温度は上昇することがある(左図)
  • 惑星を外からみたときに同じだけの輻射を射出しないといけないことに注意


乾燥断熱温度勾配


湿潤断熱温度勾配(1)


湿潤断熱温度勾配(2)


擬湿潤断熱温度勾配
  • 凝結物は系から取り除く


放射平衡大気はいつも対流不安定ではない(1)


放射平衡大気はいつも対流不安定ではない(2)
  • 普通の 2 原子分子 および 3 原子分子理想気体では, 上記の条件を満たさない
  • 地球の場合, 地面の存在と水蒸気の凝結によって, 実質的に上記の条件が満たされている.


Runawy greenhouse
  • 「暴走温室」


射出限界
  • 海洋を持つ惑星が射出できる惑星放射の限界


暴走温室効果
  • 鉛直 1 次元大気モデルで計算した大気の射出量の変化. 実線は 1atm 空気, 破線 1atm CO2 の大気を与えた場合の結果
  • 地表面温度が上昇しても惑星放射量は増加せず, 頭打ちになる


Nakajima et al. (1992)
  • 灰色大気の放射対流平衡計算. 乾燥空気と水蒸気の 2 成分, 水蒸気のみ放射を吸収するモデル.
  • 二つの射出限界が存在する
    • 放射平衡できまる射出限界と放射対流平衡できまる射出限界


Komabayashi-Ingersoll 限界
  • 放射平衡で決まる射出限界


Komabayashi-Ingersoll 限界(2)


Komabayashi-Ingersoll 限界(3)
  • 温度と蒸気圧曲線から光学的厚さが定まる
  • 射出されるフラックスから, 温度と光学的厚さが定まる
  • 両者の交点から, 光学的厚さを定める
    • 解が得られるフラックスの上限が 385 W/m2


射出量が一定になる理由(1)
  • 圧力を軸として見ると, 地面温度が大きい場合の温度構造は水の飽和蒸気圧曲線と変わらなくなる
  • 光学的厚さを軸にし見ると, 温度構造は一本の曲線に乗る. 光学的厚さ 1 付近の温度構造も変化しない


射出量が一定になる理由(2)
  • 光学的に厚い大気の場合, 射出量は光学的厚さ 1 付近の温度で決まる
射出量にピークができる理由
  • 大気の光学的厚さが 1 程度になると射出量は頭打ち
  • さらに地表温度を上げると, 水蒸気量は急激に増加する. 光学的厚さ 1 付近の温度勾配が 乾燥断熱減率から湿潤断熱へと変化し, 射出量が減少する.


Abe & Matsui 1988, Fig. 1


水蒸気大気 Z-T 図
Abe & Matsui 1988, Fig. 2
  • H2O 100 気圧, CO2 50 気圧の大気


水蒸気分布
Abe & Matsui 1988, Fig. 3


地表からの射出フラックス vs. 地表面温度
Abe & Matsui 1988, Fig. 6


2.3 凍結限界
  • アルベドの温度依存性を考慮する


多重平衡
  • 凍結解から無氷床解に遷移するときの太陽定数は射出限界より大きい. 遷移すると暴走温室状態になってしまう


2.4 水が存在できる条件
  • CO2 と H2O だけの大気の場合
  • 4 つの条件で区切られる


必要な水の量
  • 液体の水が地表で存在できための水蒸気気圧の条件


原始地球・金星・火星の比較
  • アルベドは大気のみで決まるアルベドを仮定


Habitable Zone


ODAKA Masatsugu, SUGIYAMA Ko-ichiro & SASAKI Youhei 2006-08-08