/森羅万象学校 /2006-07-25/

Habitable Planet の形成と進化 (4):
H2O の供給, 地球大気形成論

阿部 豊(東大・理)
2006 年 7 月 26 日
H2O はいつ供給されたか?
  • 日本人は惑星形成と同時に供給されたと考える人が多い
  • 欧米では惑星形成後に供給されたと考える人が多い


水の彗星供給説


巨大衝突で大気は失われるか?(1)
Genda & Abe, 2003.
  • 右図: 巨大衝突時の地表での速度とはぎとられる大気の割合. 地表で脱出速度に達しないと大気全体はなくならない.
  • 左図: 巨大衝突が繰り返し起こったときの大気量. 10 回くらい衝突しても初期に保持していたの大気の 4 倍くらいの量は残る.


巨大衝突で大気は失われるか?(2)
Genda & Abe, 2003.
  • 海があると大気が多く失われる
  • 海は残る


巨大衝突で大気は失われるか?(3)
Genda & Abe, 2004.
  • 衝突による加熱の効果を調べる
  • 現在の海洋質量に相当する水素がどのくらいの時間スケールで散逸するか
  • 衝突加熱により珪酸塩が蒸発するようになると, 大気の平均分子量が上昇し, H は高温になるにもかかわらず逃げにくくなる.


衝突現象
  • 衝突による脱ガスを理解するために
  • 惑星形成時の原始惑星と衝突天体との物質交換


天体衝突で何が起こるか


衝突過程
  • b) 圧縮段階: 地面に衝突し圧縮をうける, 高温高圧状態を経る
  • c) 掘削段階:
  • d) 変形段階: クレータの形成


衝突時の圧縮による体積変化
  • 横軸は衝突速度, 縦軸は衝突前後の体積の変化率


衝突時の圧縮による圧力変化
  • 横軸は衝突速度, 縦軸は衝突時の最大圧力
  • 惑星中心部と同程度の加圧を受ける


衝突時の圧縮による温度変化(1)
  • 細線: 衝突時の最高温度
  • 太線: 衝突後の温度


衝突時の圧縮による温度変化(2)
  • 折れ曲がりは融解が生じていることを示す
  • フラットな部分は気化が生じていることを示す. 減圧されないと蒸発は起こらないことに注意.


衝突速度と起こる現象
  • 衝突速度の下限: 脱出速度
  • 衝突速度の上限: 十分遠方の微惑星の速度+脱出速度
  • 月よりちょっと大きいサイズで脱ガス開始
  • 火星サイズで融解が開始
  • 地球サイズで蒸発が開始
短期間であれば月サイズの原始惑星は大気を持てることを示す. 大気が逃げないサイズと, 衝突時に脱ガスが起こるサイズは(なぜか)ほぼ同じ.


マグマポンドの形成(1)
  • 大きな天体が衝突すると, 融解部分がはぎとられずに残る


マグマポンドの形成(2)


実際のクレータ(米国アリゾナ州)
  • 直径 1.4-2 km.
  • メルトの痕跡はない


Ries クレータ(ドイツ)
  • 直径 20 km
  • メルトの痕跡が残っている
衝突体が 100 km くらいになると, ???? km くらいのクレータができて 100 km くらいのメルトの池ができる.


脱ガス大気


炭素質隕石からの脱ガス大気
Hashimoto et al.
  • 平衡計算
  • 1000 K で急冷されるとすると, H2, CO などの還元的な成分も含まれる
  • H2O は除いた成分を書いてあることに注意


微惑星から形成される気体


還元的環境と酸化的環境
  • 脱ガス大気が還元的な成分を含むとすると, Miller and Uery (1953) の実験で示されたようなアミノ酸の生成過程が 地球上でも起こる可能性がある.


岩石と金属鉄との化学反応(1)
  • 大気をまとった原始惑星上でどのような反応が起こるか, を考える
  • ここでは IW - HM までの 5 つの反応に着目する.


岩石と金属鉄との化学反応(2)
  • それぞれの反応が起こる場合の H2/H2O 比


岩石と金属鉄との化学反応(3)
  • それぞれの反応が起こる場合の CO/CO2 比


岩石と金属鉄との化学反応(4)
  • それぞれの反応が起こる場合の CH4/CO2 比
  • 鉄があるとさらに還元的な成分が増える


融解した岩石と原始大気との反応(1)
Kuramoto


融解した岩石と原始大気との反応(2)


融解した金属鉄と原始大気との反応
  • C は金属鉄によく溶ける, もともとあった量の 99% は鉄に溶ける


まとめ


大気形成の一般シナリオ
  1. 原始惑星形成過程: 太陽組成+脱ガス成分の混合大気
    • 希ガス成分の比較から, 現在の大気は主に脱ガス成分でできていると考えられている
  2. 巨大衝突による混合大気の変質
    • 巨大衝突ではすべての太陽組成の初期大気を散逸できない
  3. レイトベニア成分: 金属鉄と反応したけ形跡がないため, コア形成後に集積したと考えられている成分
  4. 大気散逸: 水素, Ne の散逸
  5. 連続脱ガス成分の付加


課題
  • C, N2 の挙動を考えることが必要


OHISHI Takahisa 2007-03-02